好きな写真家5 桑原甲子雄
たまたま古本市で見つけた、「東京昭和十一年」という写真集がきっかけでこの写真家のことを知った。確か晶文社だったと思うが箱入りクロス張りの立派な写真集で、中身は下町を中心に街のスナップ写真が満載で、じっくり見てみたくて買ったのを覚えている。
そのときは桑原甲子雄さんという写真家について全く知識はなかったし、それ以上知ろうともしてなかったのだが、ただその写真はとても魅力的で、何度見ても見飽きなかった。
ある日、本屋で立ち読みしていたカメラ雑誌の巻頭カラーグラビアにこの写真家の名前を見つけて、改めてこの写真家のことに興味を持った。
調べてみると、数々の写真雑誌の編集長を務め、荒木経惟さんを始めたくさんの写真家を育てた、写真家としてだけでなく、名物編集者として有名な方だということを知った。
自宅にある古い写真雑誌を見てみると確かに桑原甲子雄さんの名前がクレジットされているものが何冊かあったので日本の写真界に常に関わりを持っておられた方だということがわかった。
そのようなスゴイ方だと知っても、私には写真家としての桑原甲子雄さんの撮ったものに興味があったので編集者としてのエピソードにはたいして興味がなかったのだけれど。
桑原甲子雄さんの写真を見ていて感じるのは、早足で街を歩きながら辻斬りよろしく目の前の景色を切り取っていたのではないかということ。
作品づくりだとか、まとめ上げようとかいう作画意図よりも、目の前の現実を、通りすがりの一瞬にシャッターを切りながら撮り歩いていたように見えるところ。
過度に表現的にならず、当時の生活や街の様子を付かず離れずの距離感で切り取っているところに、なんだか昭和の初め頃の写真を見ているような気がしなかったわけで。
以前、写真家の森山大道さんが新宿の街を撮り歩く姿をドキュメンタリー番組で見たことがあるが、コンパクトカメラを片手に、歩いては立ち止まり、しゃがんだり、振り返ったりを繰り返しながら、目の前に広がる景色に次々とシャッターを切っていた。
桑原甲子雄さんの写真を見ていてそのシーンを思い出してしまったのである、当時としては小型カメラの部類に入るライカを片手にたぶん同じように撮り歩いていたのではないかと。
写真を撮るというよりも「採集」、虫取り網を持って草むらで昆虫採集するかのように、街の雑踏という茂みの中にカメラ片手に分け入って生活の様子や風俗を採集していたに違いないと写真を見れば見るほど、そう思えたのである。
「東京昭和十一年」は実家に置きっぱなしなのだが、いつでも見られるように手元においてあるのがこの新潮社から出ていたフォトミュゼシリーズ。
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コメント
こんにちは。
私も持ってます。発売日に購入しました。
久しく本棚から出していないので、今日寝る前にでも読んで(眺めて)みようと思います。
投稿: 想桜 | 2015年8月 6日 (木) 15時48分
想桜様、こんにちは。
このシリーズは写真家の撮った写真全体を見渡せるので、さっと取り出して見るのには良かったですね。紙質も良くないし、分厚すぎて開きにくいし、じっくり写真を鑑賞する写真集ではありませんでしたが。
投稿: よもかめ亭主 | 2015年8月 8日 (土) 16時14分