ハーフサイズという時代
1959年に発売されたオリンパスペンによって、日本ではハーフサイズブームが起こります。カメラは高いもの、写真はお金持ちの道楽が当たり前の時代に、安くて、写りが良く、フィルム代が半分ですむハーフサイズカメラに人気がでたのは当然かもしれません。
オリンパスの快進撃を他のカメラメーカーが指をくわえて見ているはずは無く、その後数年で、たくさんのメーカーがこぞってハーフサイズカメラを発売し、カメラのひとつのジャンルとして定着していった時代でもありました。ニコンでさえ、S3をハーフサイズにしたS3Mを出していたぐらい。
カメラそのものの基本性能に関しては、誰でも簡単に写真が撮れることを目指していたものがほとんどでしたが、そのデザインに関しては個性的なカメラが多かったのもハーフサイズカメラの特徴だと思えます。
ゼンマイドライブでタバコの箱ほどの大きさのリコーオートハーフは近未来的でしたし、タロンシーク、ヤシカエクセル、ヤシカラピードは縦型ボディーが特徴的、ハーフサイズでは後発のキヤノンデミは角の丸いおしゃれな形でボディーカラーに青、赤、白のバリエーションがありましたし、キヤノンダイヤルも独特な形が個性的でした。
ハーフサイズで唯一無二の一眼レフ、オリンパスペンFは独創性の固まりのようなカメラで、35ミリ高級一眼レフと比べても全く遜色がないどころか洗練されたデザインは今でも古臭さを感じさせません。デジタルカメラのオリンパスペンシリーズにそのテイストが生かされていることでも分かります。
子供向けカメラを出していた東郷堂からメイハーフEL、明興社からメイスピイ35ハーフなんてのもありました。
百花繚乱、玉石混淆、どこもかしこもこぞってハーフサイズカメラを発売し、カメラ産業の中でどんどん勢力地図を拡大していた時代、カメラ雑誌も無視することが出来なくなって、特集記事を組んだりしてました、古いカメラ雑誌を調べてみると結構力の入った特集記事だったりして面白いものがあります。
力を入れないといけないぐらいハーフサイズカメラがブームだったという事でしょう。
作例写真や使用レポートに写真家の大先生が駆り出され、ハーフサイズとは何ぞやという解説記事、現行機種の一覧、カメラごとの特徴と解説、業界のお偉いサンや写真家による座談会、メーカーへの質問、アンケート結果、ハーフサイズに向くフィルムと現像引き伸ばしの仕方、アクセサリー紹介等々。
読んでいて感じたのは、読者向けの記事というより、写真界の古い見識の方たちが、あっという間にブームになってしまったハーフサイズカメラをなんとか理解したいというために特集記事を組んだのじゃないかということ。
小型軽量、たくさん撮れて誰でも簡単に扱えるカメラのブームに自分たちの今までやってきた写真作法や常識が脅かされるのではというのがチラチラ見え隠れして、そこが面白かったりします。
「初心者、女性の方などに最適のカメラ」「35ミリフルサイズのサブカメラとしての将来を期待する」など完全に上から目線の意見、便利なのは分かるけど認めたくないというのが本音だったのかもしれません。ハーフサイズがブームになったのは使う人が今までのカメラと違う便利さに気が付いたからなのにね。
実際にどのように使われているかのレポートでは、フィールドワークの学者の学術関係の記録や、たくさん撮れる利点を生かして旅行用、メモ代わりとしてなどが出ていました。今でいうコンパクトデジカメやスマホで手軽に撮るのと似ていますね。
ハーフサイズカメラのブームは詰まるところ、カメラは作品を撮るためだけのものではないということを広く知らしめたことだったのかもしれません。
その後1960年代後半、35ミリフルサイズでも小型、軽量なカメラが登場してきます、ドイツのローライ35、国産ではペトリカラー35など、いわゆるコンパクトカメラと呼ばれるカメラが流行の兆しを見せ、結果1970年代に入るとハーフサイズカメラは急速に衰退していきます。
1980年代に京セラサムライ、フジツィングTW-3、コニカレコーダーというハーフサイズカメラが発売されますが、もう一度ハーフサイズのブームを呼び起こすまでには至りませんでした。
日本のカメラの歴史の中で、絶対はずすことが出来ないハーフサイズというジャンルのカメラたち、コンパクトデジカメやスマホで写真を楽しんでいる方のフィルムカメラ入門機として今の時代だからこそ再評価して欲しいカメラだと思っているのですが。
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