恐怖のコピーライター
若い頃、短期間だが大阪のとあるデザイン会社に勤めていた事がある。
某大手家電メーカーの製品に付く取扱説明書の仕事や、今は日本映画に欠かせない性格俳優になった方が所属していた劇団の仕事なんかをやっていた。
社長も含めて5人ほどの小さな事務所で、女社長は夕方になると、お客さんの接待を兼ねて、飲みに出てしまうので、ナンバーツーのコピーライター女史が仕切ることになるのだが、これがイヤでイヤでしょうがなかった。
風貌はマツコ・デラックスもびっくりの信じられないくらいの巨漢で、いつも何か食っていてそのくせ便秘がひどく、それが原因なのか、常にイライラして怒鳴り散らしていた。
標的にされていたのは一年先輩のデザイナー、おとなしい人で決して逆らったりしないのが、かえってイライラさせてしまうらしく、いつもボロクソに怒鳴られていた。
それで収まらないときには私のところに飛び火するので、ヒヤヒヤしながら、状況を横目で見ていた覚えがある。
女社長が昼間からいないときは最悪だった、昼飯は諦めなくてはならない、うかつに昼食などと言おうものなら何を言われるか分からないからだ。
「まだ一人前ちゃうのに、何でメシだけは一人前に食うんや?」
信じてもらえないかもしれないが、これが普通だったのだ。定時はビルの守衛が消灯を知らせに来る午後10時、この時間に帰れればまだマシだった。
今では考えられないことだが、ちっぽけなデザイン会社なんてどこもこんな感じだった。福利厚生なんて宇宙の彼方、残業残業で無理に無理を重ねて働いているのが実情。クリエイティブな仕事をしている(はず)というプライドで頑張っている(つもり)な業界だった。
体や心を壊した人から順番にサヨナラ、何人かの友人もそれで転職や田舎に帰ってしまった。
結局長続きはしなくて、先輩を見捨てて辞めてしまったのである。最近その近くを通ることがあったが、会社どころか、ビルごと無くなっていた。
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