坂の街、尾道の思い出
旅の雑誌の写真がきっかけで尾道に行き、すっかり気に入ってしまって、しょっちゅう行っていた時期がある。
神戸に生まれ育ったせいもあって、坂の街に惹かれるのかもしれない。神戸よりももっと急こう配の坂道の路地をうろつきながら写真を撮るのが休日の楽しみになっていた。
一度、桜の頃に訪れたことがあるのだが、千光寺公園への急な坂道を、花見のためなのだろう、重いビールケースを担いで平気でホイホイ登っていく地元の人を見て驚いてしまった。
私はというと、尾道へ行くと必ず立ち寄る「しみず食堂」で水筒に熱燗を入れてもらい、いなり寿司と、「桂馬」で買ったかまぼこを持って坂道を登り、夜桜の花見としゃれこんだ。今までの中で一番の花見であった。
泊りがけで出かけたときはビジネスホテルには泊まらず、海辺にあった古い木造三階建の商人宿に泊まった、しみず食堂で教えてもらった宿で、尾道での定宿にしていたが、今はもうやっていないようだ。
今はとてもできそうにないが、あのころは両肩に一眼レフ、大型のカメラバッグ、三脚までもって、複雑に入り組んだ坂道の路地を登ったり下ったり一日中しながら、見るものすべてをカメラに収めるように写真を撮っていた。撮りつくせないぐらい魅力のある坂道だった。
坂の街の魅力は、振り返りざまにあると思う。少し登って振り返るたびに景色が変わるのが楽しい。尾道の坂はそれを一番教えてくれる。
尾道 しみず食堂 1998/EOS-1N EF75-300mmF4-5.6IS USM/雁木が並ぶ海岸沿いにあった頃の写真である。現在は少し駅寄りに移転している。
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