今宵、いつものバーで
「今宵、いつものバーで」というフレーズは、FMラジオの番組だったかでよく聞いたと思う。あまり確かな記憶ではないのだが、何となくこの言葉が気に入っていて、いつもバーの扉をくぐるたびに念仏のように頭の隅っこにこの言葉が浮かぶのである。
バーという単語に特別な感情を抱くようになったのは、活字中毒だった中学生の頃だったと思う。とにかく本を読みまくっていた。
背伸びしたい年頃である。意味もわからない文学もたくさん読んだが、結局のところ、本当に面白くてのめり込んだのは、SF小説と推理小説と007などのスパイ小説だったような気がする。
そのような小説には、バーのシーンなどがよく出てきて、これが自分のバーへの憧れのきっかけになったのだと思えるのである。
バーで飲むというのはかっこいいことだと思っていた。大人はみんなそういうところでカッコよくお酒を飲んでいるものだと信じていた。
いざ自分が働きだしてそういう所に行けるようになった時、そこにあったのは、カラオケスナックだった。しかも会社の上司や得意先の部長に連れられてである。
カラオケスナックが流行りだした頃という時代もあったが、エイトトラックのカラオケでかかるのは北島三郎などのド演歌。
カクテルなど逆立ちしたって作れそうもない鬼瓦のようなママのおしゃべりを聞きながら、サントリーオールドやスーパーニッカの水割りをすするのが、お酒の飲み方だった。私の心にあった、憧れのかっこいいバーは木っ端微塵に遠ざかってしまった。
バーに行くようになったのは、一人で飲み歩くようになってからである。とあるバーでの出来事がその後のバー通いのきっかけになった。
重厚な扉を開けた瞬間、その奥にある落ち着いた別世界に、ああこれだと思った。その後、すっかりバーにはまってしまい、たくさんのバーの扉をくぐったが、いずれも、ああこの店と知り合えてよかったといえる店ばかりだった。酒を飲むために最高の状況を提供してくれる、ただそれだけの場所、それがバーだと知ったのである。
いったいどれだけの時間をバーで過ごしただろうか、数え切れないくらいの杯を重ね、会話を重ねたのだけど、そのことはあまり思い出せない。思い出せるのは、ゆっくりと漂う充実した時間をいつも楽しんでいたことだけである。
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