町工場
学校を出て勤めだした最初の会社は、コテコテの典型的な町工場だった。
隣近所にも、文化住宅や商店にはさまれながら家族ぐるみで操業しているような小さな町工場がたくさんあった。
向かいは大手高級菓子メーカーの下請けをしている焼き菓子の工場で、売り物にならない割れたクッキーをパートのおばちゃんが時々分けてくれた。そしていつも決まった時間に、甘いバターとバニラやチョコレートのにおいがしてきて辺り一帯がお菓子の匂いに包まれ、なんだか幸せな感じがしたのを思い出す。
しかし、これも風向きが変わると、近くのゴム工場の溶けたゴムのツンとくる臭いにかき消されてしまったのだが。
見た目だけでなく、音や臭い、働く人のいでたちでどんな工場なのかおおよそ見当がつくのも町工場の町工場らしさだといえるだろう。町工場にはそこでやっている仕事の表情があると思う。大企業の巨大工場のような効率と大量生産が目的の工場とは違う人の手によるもの作りの場の空気があるからである。
前述の勤めていた会社も町工場だったが、そこに出入りするさらに下請けの会社のおっちゃんたちも皆、町工場の職人さんたちだった。溶接工、旋盤工、塗装工、板金工等々。
九州から中学卒業後、集団就職で神戸にきた人たちが特に多くて、総じて酒好き、バクチ好き、大きな事を言う割にはいざとなったら結構気が小さい、頑固でヘンコ、しらふの時は「今日びの若いモンは、」と否定的なものの言い方だが、酒が入ると「若い人はええ。」と肯定的なものの言い様になる、取っつきにくそうに見えるが、こちらが困ってあたふたしていると「しゃぁないやっちゃ」といいながらも助けてくれる優しさがある、ふだんは無口だが、子供のことになると饒舌、仕事に対しては責任感が強く、「最後はワシがやらなアカン」的、職人技を持っていて皆さんその道の達人で信頼されていた。
職人さんも魅力的だが、工場そのものも町工場的なところがある。特に面白いのは、たいていの工場が前の道を勝手に自分のものにしているという点だ。
自動車の塗装工場の前の道はペンキの色がいっぱい付いているし、鉄工所の前は溶接の火花の跡がついている。旋盤工場の前は油でシミになっていて、ドラム缶に金属の切りくずが放り込まれて置き去りになっている。木工所の前には木の板が何本も立て掛けられているという具合だ。
町工場にとって仕事場の前の道は敷地の内なのである。
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